| いつからだろう、この小屋を訪れなくなったのは。 私が一人になれる空間。 だからと言うわけでもないが、ここはお気に入りであった。 ・・・・・・多分、何百年も前まで。 そんな小屋の屋根裏に、私はいる。 下に下りることは出来ない。 だって、二つの闘気がぶつかり合ってるんだもの。 そしてその二つは、決着がつくまで私の介入を許さないだろう。 「いいじゃない。それがあなたの見る最後の華、だと思えばね・・・・・・」 その声だけを聞いただけで眼に映ってしまう。竜胆が妖しく微笑む姿が。 私はあれに魅せられた。弱ささえさらけ出すほどに。 それに対峙している忍は・・・・・・無神経だ。 或いは美夕がいるから強がっているだけかもしれない。 あの二人は不思議。生きること、世界の厳しさなんて知ったこっちゃないっていう感じで今を生きている。 羨ましいと言えば羨ましいけど、私の肌に合わない・・・・・・。 「あぐっ・・・・・・!」 少ししてから忍から苦渋が漏れた。 しゃがれ気味なあの子の声から溢れるそれは聞き応えがある。 私は少しだけ笑みを含んで、下の様子を見やることにした。 「こんなことなら余計な体力使うんじゃなかった・・・・・・」 今更何を言ってるんだか・・・。だいたいあなたからでしょうが、仕掛けたの。 おまけに得物が・・・木刀二本・・・? ばか、そんなので竜胆と戦うなんて、文字通り太刀打ち出来ないわ・・・ あの子は実体がないのと同じなのよ・・・? 「蒼武忍法、五月雨連撃斬!」 忍の必殺が唸りを上げた。 一見、独楽の動きに似ているそれは、その実、木刀を左右に激しく振り回している作用と反作用・・・つまり、刀の重さその物を持って素早さに変えた、近づくものを細切れにする恐ろしい技。 上から見ればよくわかる。あの子の体自体は回っていない。あまりにも腕の振りがそう見せるのだ。 「んっ・・・・・・?」 私は忍の鉢巻に目が向いた。額が微かに紅に滲んでる。 よく見れば傷だらけだし・・・・・・。 そろそろ限界ってところかしら、忍の理性・・・・・・。 「死になさい!」 竜胆の本気が鈍い音を立てて忍にぶつかる。 肋骨が折れたか、或いは折れた骨が肺を掠めたか・・・。 どちらにしろ、このままだと竜胆の方が危うくなる。 ・・・あっちの忍が眼を覚ましてしまえば・・・。 私はいつの間にか斧を握り締め、下の様子を食い入るように見つめていた。 いつでも飛び込めるように。 二人の間に割って入れるように。 ドウシテ ソンナコトヲ スルノ ? 右目が問う。 フタリハ ワタシガ アラワレルコトヲ キット ノゾンデイナイ 「・・・うるさい」 デタトコロデ ドッチ二 ツクトイウノ ? 「・・・・・・過去の自分ごときが、今に意見しないでよ・・・・・・!」 何も出来なかった癖に。 だから今飛び出す。 何をどうするかはその後に考える・・・・・・。 そう想った刹那である。 切ない忍の声が耳に滑り込んだ。 「そんなに強いのにどうして人質取る必要があるのかな・・・・・」 ・・・えっ・・・? 忍、どうしたの・・・・・・? 台詞が違う・・・。 ほら、殺しなさいよ。竜胆を窮地に追い込んで、そして私が出るようなお膳立てしなさいよ、妹なら・・・。 「何故?愛しい存在を目の前で殺される。その痛みを味わわすためよ。それだけ貴女が憎いわ。あんなにバカみたいに信じてくれる存在がいて―――不公平だと思わない?」 「・・・・・・っ!」 胸に激痛が走った。 これは間違いなく呪傷の痛み・・・。 竜胆の呪詛が私の傷に呼応している。 これが何を意味するのか、私は知っている。 ―あの妖美の化身を、私は殺したいほど愛してる・・・・・・ ・・・くっ・・・ あっはっはっはっ・・・! 私みたいな人間の出来損ないがまだそんな感情持っていたなんてね・・・。 いいわ、認めてやる。 この戦いが終わったら素直に白状してやるわ、あの二人の目の前で、ね・・・・・・。 ・・・もっとも、もうすぐ一人になりそうだけど。 「言い残すことはない?」 「ホントは仲良くなりたかったんだけどね・・・・・・」 忍の言ってることは「ホント」だ。 出なければそれこそ真剣持ち出して、竜胆のことを本気で殺しにかかっている。 だけど、だけどね忍・・・ 「もう遅いわ」 そう、遅すぎ。 変に意地張り合うからよ。 竜胆と、美夕と、あなた自身にね。 「・・・・・・どうして抵抗しないの!?」 「・・・くっ・・・」 忍がにやりと笑った。 らしくない、汚れた笑み。 その意味を私は知っている。 ―覚悟、出来たよ。 いつかその言葉とともに私に見せた表情。 「忍、いけない!」 私はいつの間にか叫んでいた。 だが、私の声は高い方。低すぎる爆音にすんなり掻き消された。 爆煙が視界を遮る。 やがて見えてきたのは・・・無事な竜胆と、右腕がもげた忍の姿。 安堵と絶望が同時に押し寄せたのは言うまでもないだろう。 ホラ マタ ナニモ デキナカッタ・・・・・・ 嘲笑う右目を、私は根元から抉り出したかった。 次へ 戻る |