
| 夕日が差し込む六課隊舎の廊下にて、シグナムは母子のような二人組とすれ違いかけた。 「シグナム」 互いに立ち止まり、先に母親のような金髪の女性が声を掛ける。 その声に併せるように、隣にいる赤髪の少年がビシリと敬礼をした。 「テスタロッサにエリオか」 確認するように、シグナムは 「今日はもうあがりなのか?」 社交辞令のような、憮然とした声で訊ねた。 「ええ、シグナムは? もしよかったら一緒に」 躊躇いがちに問いかける。 「・・・私はまだやることが残っているからな、ゆっくり休むといい」 と、言い切った直後である。 頭の中に、妙に甲高い声が鳴り響いた。 『素直じゃないシグナム副隊長はっ、素直なシグナム副隊長にキャラチェンージっ!』 「むなっ!?」 同時に全身が震え、肩を抱きながら崩れる。 その異変に、フェイトが真っ先に反応した。 「シグナム、しっかり!」 と、駆け寄り、心配そうに肩に手を当てる。 その腕を、シグナムはギュウと握り締めた。 「シグナム、なにを・・・」 度重なる不意に、フェイトの息がつまる。 やがてぎらついたシグナムの眼が、フェイトの瞳を貫いた。 「テスタロッサ、好きだぁあああああ! 」 雄叫びと共に、シグナムはフェイトの豊乳を握り締めた。 「ちょっと、シグナム! こんなところでっ、こんなところで胸を揉まないでください! エリオが、思春期の坊やが見ていますから!」 「見てません、見てませんから!」 唐突すぎる出来事であるにも拘らず、エリオはキチンと両手で眼を覆っていた。 「はあっ・・・!? す、すまん!」 正気を取り戻したらしく、怒りと困惑をだだもれにした声で叫ぶと、シグナムは彼女らしからぬダッシュでその場から去った。 「ヘンなシグナム・・・疲れているのかな?」 そう解釈するフェイトの言葉を聞いて、エリオは己の隊長の奇妙な鈍感さに軽く呆れた。 「で、ですね」 と同意をし、改めてシグナムの変化を思い出す。 そしてピンと来た。 いつものポニーテールを結ぶ黄色い紐が、白いリボンになっていたという点に。 エリオは何か起こりそうだな、と思いつつも、首を突っ込んで被害者になるのも面倒なので考えるのをやめ、再び歩き出したフェイトについていくことにした。 ◆ ◆ ◆ 「シャっマァアアアアル!」 と、同僚の名を絶叫しながらシグナムが飛び込んだのは医務室である。 「あらシグナム」 医務室の主は穏やかにに答えた。 「お前、私に何をしたァ!」 非常に興奮した口調である。シャマルは戦闘以外では見られないシグナムの状態に軽く危機感を感じ、あっさりと白状した。 「コレ」 と、自らが仕事をこなすデスクの上を指差す。 長い白髪に隻眼の少女と、赤い髪をバレッタで雑に纏めた少女がそこにいた。 ただし、サイズはきわめて小さい。かといって、リインフォースUのように人間を縮小したというわけでもなく、マスコットのようなを雰囲気をかもし出している。 「んなっ、なんだ、これは。戦闘機人の眼帯とアホではないか」 かつて敵であった7センチの二人を見ながら、シグナムは困惑気味に言った。 「スバルもいるわよ、あなたの後ろに」 「チッス!」 「ち、チッス」 目の前でプカプカ浮かれた挙句に敬礼され、シグナムも思わず敬礼した。 「その名も『しゅご騎士っ!システム』」 シャマルは言った。 「自閉症のコとかの心を開く、リハビリっていうのかしら? そのために作ってみたんだけどね、あくまで趣味の範疇だけど。それに使い方によっては、はやてちゃんみたいな子が淋しくならないようにっていうか・・・」 白髪隻眼のミニキャラの頭を指先で撫でながら語る。 「ちなみにユニゾンインみたいなことさせるとこの子たちの性格をベースに、本心さらけ出しちゃうわけよ」 シグナムは呆れた顔を、シャマルに向けた。 「人選的に残念な結果しか得られんぞ、きっと」 どうやら冷静さを取り戻したらしい。 「・・・いや、待て。少々面白いことを思いついた」 それどころか順応してしまったようだ。 「こいつらの実証実験、私に任せてもらおう」 「シグナム、どんだけヒマなの?」 シャマルはさりげなく毒づいた。 「仕事の手際がいいだけだ。何よりヒマを謳歌して英気を養うのも騎士のたしなみだ、違うか?」 持ち前の説得力のある声で持論を展開する。それにはシャマルも頷くしかなかった。 さらに。 「シグナム、すっかり人間らしくなって」 と、わざとらしく目じりをこすりながら言う。 「そんなことより」 シグナムはシャマルのボケをおざなりにした。 「何ゆえコイツらなんだ」 「ちょっとマリィのとこから戦闘機人のコたちのデータちょろまかしたら、この子たちしか取れなくて」 さりげなく犯罪を自白した。 「よし、バラしたら内部告発するからな、いいな?」 「はいはい」 「もう勝手にやってよ」と、放し飼いオーラを全開にしている。 「よし。では早速、始めるとしよう。お前達、ついてこい」 勤務外だというのに烈火の将ぶりを発揮し、シグナムは悠然とシャマルの部屋を出た。 「うむ」 「はい!」 「うーッス」 小さな戦闘機人たちもそれに従い、各々の返事を出し、フワフワとシグナムの背についていった。 その姿を見ながら、シャマルは小さくため息をついた。 「・・・シグナムってば、妙に楽しそうだったわね、ザフィーラ」 「案外、本気なのかも知れんぞ、実証実験という言い分」 「それを口に出さず、我々に気負いさせぬのが我らの将だ、違うか?」 「理解力ありすぎ」 そう言うシャマルも、その言葉は悪くない、と言った笑顔で一団の背を見送った。 戻る/つづく |