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今夜の番組チェック
7月も終わる台風が来たあの日、俺の命も終わろうとしていた。
急性肺炎。風邪の上に雨に当たったから。
どうしてって、若葉ちゃんの”友達”を助けるため。
崖に咲くたった一輪の花だけど、馬鹿にすることは出来ない。
若葉ちゃんは言った。
草や花にも心がある、って。
優しくされたら喜んで、人に恋することもあるんだ、って・・・。
・・・若葉ちゃんは自分の力を無理に引き出して、そう言い残して・・・。
あるべき姿に、戻った。
あれからおおよそ10ヶ月。
鐘ノ音学園の男女共学化が現実となった。
新しく入った女子には馴染みの顔もあった。むしろほとんどそれというか。
その中にはもちろん、あいつもいた。
朽木双葉。若葉ちゃんの姉・・・もといご主人様に値する。
もっとも、その事実を知るのは俺くらいなものなのだか。
その姿を確認して、俺はなんとなく安心をした。
どうしてかって・・・試験編入が終わる際のことだ。
俺はバスに乗り込む朽木に若葉ちゃんのことを報告しようと声をかけた。
例のサボテンと手袋を持ちながら・・・。
「高崎、あんたがしばらく預かってくれない?」
すっかり変わり果てた若葉ちゃんを見て、朽木は一言そう言った。
俺は「へっ?」という間抜けな返事で答えた。
「・・・ちょうどいい目印じゃない。ここに来るための。」
「なんだ、そんなに気に入ったのか。」
「まあ、ね。」
相変わらず可愛くない態度で朽木は言った。
「それに若葉の回復も早くなるんじゃないかしら?ここって、妙に自然の力が強いからね。」
言われてみればなるほど、と思える。
無駄に広がる森は富士の樹海に匹敵するくらいで、マラソン大会をすれば遭難者も出る。
やはり、その自然の力というものが強いからだろう。
「ま、あんたとしては離れたくないんじゃないの?」
うわっ、可愛くない。
見事に図星を突かれ、俺は素直にそう思った。
バッチグーの言葉を借りれば「ピュアに殺しとく」か。
いや、そこまではない。なんというか、見透かされている気がして少々意地になった。
「そういう意味も含めて、来年まで預かっててよ。あ、これ以上枯らしたりなんかしたら・・・。」
「わかった、わかった。そんなことするわけないだろう。な、若葉ちゃん。」
そう言いながら、俺は手に持ったサボテンに声をかける。
残念ながら、返事はなかった。
「・・・ずいぶんと無口になっちゃったわね、若葉。」
と、双葉。そういう問題なのだろうか。
「あ、そうだ。」
思い出したように朽木が言った。
そして素早くも慣れた手つきで、俺の手から手袋を奪った。それも片方だけである。
「手袋の片方、私が預かる。これで少なくとも確信もてるでしょ?」
そう言い、朽木はさっさとバスに乗り込んだ。
妙に思わせぶりな笑顔から「さよなら」などのお別れの台詞はなかった。
・・・余談だが、若葉ちゃんの声が聞こえたのはこれから数日後のことであった。
始業式も終わり、俺は紫陽花が並ぶ花壇の前で相変わらずのんびりとしていた。
去年の夏ぐらいから暇な時間といえばこうしてすごしている。
不思議と心が落ち着くのだ。まるで紫陽花たちが俺のことを慰めてくれるようで。
馬鹿馬鹿しいと言われそうだが事実である。
あの日以来、俺の頭がどうかしたのか、声まではわからないにしろ、植物の気持ちというものがわかってきた。
なんというか、今、紫陽花たちは喜んでいる。
久しぶりに女子が来たからなのか、それとも天気がいいからなのか。
とにかく嬉しそうだ。
中には必要以上にはしゃぐものもいて、俺も思わず笑ってしまう。
「何がそんなにおかしいのよ。」
不意に聞こえた声に、俺は覚えがあった。
いや、むしろ待ち望んでいた。
声の主はやはり、朽木双葉であった。
最初は思い出話から始まった。
次に次第に今までのことを話した。
そして、植物の気持ちがわかるようになったということを伝えた。
すると朽木はにんまりとして俺の方を見た。
「それは若葉のおかげかもね。」
なるほど、と俺は思った。
若葉ちゃんを支えていた力。それが俺に宿ったとなればそういう事が起きても不思議ではない。
「よかったら、私の家で修行でもする?簡単なもんじゃないけど。」
そう言い、双葉は俺に手を見せた。
そこだけ容姿とは別次元であった。
手のひらも甲も、傷だらけである。それだけ修行が厳しい証拠なのだろう。
「若葉のことを戻すために、ちょっとね。」
これがちょっと言うならば本格的に修行すればきっと腕がなくなっている。
そのくらい、朽木の手は傷だらけなのだ。
中には縫ったあともあり、なんとも生々しい。
「朽木、お前そんなに・・・。」
「・・・言わないで。・・・なんだかんだで妹みたいに思ってたんだから・・・。」
素直になっているのもまた修行の賜物なのだろうか。
物思いにふける顔が、妙に可愛らしかった。
去年の夏とは違う朽木がそこにいるような気がした。
「そうよ。若葉は?いるんでしょ?」
我に返って朽木は言った。
「ああ、そのことなんだけどさ・・・。」
「何?まさかアンタ・・・。」
「いや、枯らしてはいない。」
俺はいたずらっぽく笑った。
なんというか、これから起こることを考えると笑わずにはいられない。
何せ、すでに朽木の背後には若葉ちゃんがいるのだから。
若葉ちゃんは口唇に人差し指を当てて、俺に注意を促した。
一方、朽木の方はあきれた様に俺を見ていた。
「な、なんなのよ・・・。」
その時である。
若葉ちゃんが動いた。
「お姉さま♪」
「!?」
朽木は無言で驚いた。
押し殺された叫びは別の言葉として声に表れた。
「お、おどかさないでよ!どうしているの!?」
もはや混乱の一途をたどるしかない朽木を・・・いや、双葉を、俺は若葉ちゃんと一緒に微笑んで見ていた。
詰まる話、こうである。
双葉は別れ際に言った。
『妙に自然の力が強いからね。』
それが実現しただけのことである。
もっと詳しく言えば、小みどりと遭遇した大木・・・『鐘ノ音先生』がその重要参考人であった。
先週の日曜日、俺はいわゆるデートのつもりでサボテン・・・若葉ちゃんを抱えて山を散策していた。
もちろん、片手だけながら手袋をつけて。
めぼしいところも回り、鐘ノ音先生に行き着いたわけだが、そこで事件が起きた。
青々と茂った鐘ノ音先生が突然光を放った。
その直後、俺は気を失いかけた。
体は律儀なもので、サボテンを落とすまいと深く抱えた。
不思議と針による痛みはなかったらしく、そのまま気絶をした。
そして、眼が覚めると枯れ果てた鐘ノ音先生がいて、腕の中には若葉ちゃんが人の姿で眠っていた。
そこまで話すと、双葉は何故か苦笑いをした。
「お姉さま、本当なんですよ?」
と若葉ちゃんはいうものの、双葉の笑いはおさまらない。
「別に嘘だなんて思ってないわよ。」
そう言いながら、双葉はまだつぼみの紫陽花にそっと手を添えた。
「ただ、私の修行、無駄になっちゃった、って。」
「も、申し訳ないです・・・。」
「謝る必要なんてないわよ。」
双葉は若葉ちゃんと俺を交互に見た。
「・・・どっちにしろ、式は必要だし。」
「お姉さま・・・。」
若葉ちゃんの顔が少しだけ曇った。
それに何を感じたのか、俺は少しだけ怒ったように言った。
「朽木。前言ったこと、忘れたのか?」
「何よ。」
「来年まで預かれって。だから、今日返すつもりなんだ。」
「返すって・・・どういうことよ?」
「だってよ・・・。」
俺は少しだけ言葉に詰まった。
いい言葉が見つからないだけだ。
「早く言いなさいよ。」
そう促す双葉。若葉ちゃんはと言えば、先ほどの曇りはどこへやら、俺の方を見て笑っている。
『先輩、ファイトです!』
そんな声が頭に直接聞こえてた。
「だってよ・・・いくらなんでも、男子寮においとくわけにはいかないだろ・・・。」
「あっ・・・。」
なるほど、と朽木は思ったらしく、手を口に当ててきょとんとしている。
そう、若葉ちゃんはすでに学園の中では植物ではないのだ。式神とはいえ人間の姿をしているのだから。
「というわけで、朽木。よろしく頼む。」
「お姉さま、またよろしくお願いします♪」
「ま、待ってよ!」
慌ててそう言うと、双葉はどこからともなく手袋を取り出した。
実に馴染みの深い手袋だった。
「・・・若葉を返してもらう前に、私があんたに返すものがあるんだから。」
「・・・ああ、そう言えば。」
「はい。」
双葉はぶっきらぼうに手袋を投げつける。
俺は受け取るなり、それをすぐ若葉ちゃんに手渡した。
「あ、ありがとうございます!」
若葉ちゃんは几帳面にも俺と双葉に頭を下げた。
懐かしく思ったのか、双葉の表情は少しだけ緩んだ。
「・・・さ、帰るわよ、若葉。”私たち”の部屋に。」
双葉がそう言うと、若葉ちゃんは「はい!」と元気な声で答えた。
「では、高崎先輩、また明日!」
去り際に若葉ちゃんはそう言った。
また明日。
その言葉を繰り返すことで、俺は応えた。
「同じクラスになれたらいいわね。」
双葉も若葉ちゃんに続いて、俺に向かって言った。
また明日。
部屋に彩りがなくなるのはさびしいが、それ以上のものを、その言葉は与えてくれた気がした。
明日から、また楽しくなりそうだ。
去年の初夏を思い出しながら、俺は心の中でつぶやいた。
あとがき
みどりシナリオで大木である「鐘ノ音先生」はいわゆる時の扉だったわけですが・・・。
そう言った神秘的な力があるなら若葉を元の姿にすることだって不可能ではないと思うんですよ。
この話はそんな夢話から生まれました。
反省点はいろいろあるのですが、おそらく自分にしてはマトモなものが出来たのではないかと。
高崎祐介と朽木双葉が元の生活(あくまでも鐘ノ音学園内での)に戻ることが出来た。
ただひとつ、若葉が普通の女の子として、双葉の本当の妹としていることを除けば。
そんなところが伝わっていれば幸いです。
やはり問題はシナリオクリア後の話なだけに、知らないといまいち内容が分からない、ということ。
今回はそれも考慮して作ったのですが、いかがでしょうか・・・。
原作を知らないでも面白かった、というところまで上達したいものです。
7月某日 東牙 翼
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